コラム
地震
今年も年明けに、中国地方で大きな地震がありました。定期的にやってくるので、「また今年も来たか」と、いけないことなのでしょうが地震慣れしている自分がいます。
あの東日本大震災からまもなく15年が過ぎようとしています。早いものです。「生きている間に、こんな悲惨な光景を見るなんて・・」と、当時は津波の映像をテレビで見ながら涙が止まりませんでした。東北地方は学生時代を過ごした自分の第二の故郷であり、それらの地域が真っ黒な水に飲み込まれ、その後発生した火災によって焼き尽くされていく様を、自分の身が切られるような思いで、ただただ見ているしかありませんでした。ラジオから「浜辺に300体ほどの遺体が打ち上られているという情報が・・」という放送が流れ、「そんなの映画の中の話じゃないの?」と耳を疑いました。
雪も降っていた。3月だというのに、あの日はものすごい寒い日で、高台に避難した人たちが自分の家や思い出が、いとも簡単に押し流されていくのを黙って見守ることしかできず、その震える身体の上に白い雪が積もっていく。こんなことってあるのかな?この人たちがこんな目に合わなければいけないほど、いったい何をしたというのだろう?・・と、神や仏は何やってんだ!と怒りさえも覚えました。とにかく、まずは神様この雪を止ませてください。冷たい水に濡れて凍える東北の人たちを、少しでも太陽の光で温めてくださいと、祈るしかありませんでした。
震災から少し経って、平成天皇ご夫妻、今の上皇様と上皇后さまが二人で被災地を訪問された際、現地に到着したお二人は、まず海に向かって深々と頭を下げました。これは普通に考えれば、海に流された人たちに向けての慰霊と鎮魂の意味だったのでしょう。一方で、日本国の天皇として、人知を超えた力を持つ「自然」という存在に対し、畏敬の念と祈りを示されたのだろうと、自分は直感的に感じました。
これほど多くの人命と生活を奪った憎き海に対してさえも、日本の天皇は深く頭を垂れるのです。「これが天皇なんだ」と、不思議な感動を覚えたシーンでもありました。天皇の真の存在意義は「祈り」であると、聞いたことがあります。悲しみや憎悪、妬み、罵詈雑言が渦巻く娑婆の世界で、天皇だけは祈りを止めないのです。あらゆる災難災厄を被り絶望の淵に立たされた時、唯一人間にできることは祈ること、確かにそれだけかもしれないと、震災の惨状を見ながらふと、思ったりもしました。
2000年に刊行された村上春樹の小説に「神の子供たちはみな踊る」という短編集があります。
1995年1月17日の早朝に阪神・淡路大震災が起き、神戸の町が大きく被災しました。何かを感じたのか、あの日の朝、目覚ましのアラームも鳴っていないのに、なぜか5:40にパっと目が覚めたのです。何気なくラジオを付けると、まもなく地震のニュースが流れてきました。神戸出身の村上春樹は、懐かしい故郷の町が崩壊していく様を、どういう気持ちで見ていたのでしょう。その後に描かれた小説です。なので、すべての短編に地震の影が直接的、間接的にまとわりついているストーリーだった気がします。
(私は知りませんでしたが阪神・淡路大震災から30年経った2025年に、この短編集を元にNHKがドラマ化し「地震のあとで」という4回シリーズで放送されたようです)
この短編集の中に「かえるくん、東京を救う」という小説がありました。信用金庫か信用組合のサラリーマンとして融資の返済の交渉を担当する一人暮らしの孤独な主人公の男のもとに、ある夜、人の背丈もある大きなカエルが現れて彼に頼みごとをします。地下に棲む巨大なミミズが暴れて東京に大きな地震を起こし、人がたくさん亡くなるから、それを阻止するために自分といっしょにミミズと闘ってほしい、という内容でした。それは主人公の男でなくては出来ないことだと、カエルは言います。結局、男は地下に潜り、カエルといっしょにミミズを倒し、東京を地震から救います。その後、男は誰かの手にによって狙撃され病院に運ばれた夜、満身創痍のカエルが病室にやってきて、男に語りかけます。
ざっくりとこんな話ですが、これを読んだのがちょうど東日本大震災の後でした。これはファンタジーと思いつつ、いや、もしかしたら日々、こんなことが自分の知らないどこかで起きているのかもしれない・・という思いも真面目にありました。あんな非現実のような想像を超えた災害が起きるのだから、世界のどかかでお化けミミズが暴れて地震を起こし、巨大なカエルと人間がそれを阻止しようとタッグを組んで、お化けミミズを叩き潰して世界を救っている非現実な出来事だって、あり得るかもしれない・・と。
ミミズって、もしかしたらこの世に巣くう人の念とか欲とか、そんなドロドロしたものが具現化したものかもしれませんね。それを倒す人間は、決してマッチョでもなく、正義感溢れる戦士でもなく、ごく普通の、地味だけど、日々自分のやるべきことに一生懸命に取り組んでいる人物だったのです。
ついでの話で、深海誠監督の作品「すずめの戸締り」にも、地震を引き起こす巨大ミミズが登場します。おそらく、深海監督は「かえるくん、東京を救う」から着想を得たのだと、私は密かに思っています。
